腸内フローラの研究
概要
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ヒトをはじめ哺乳動物は、母親の胎内にいる間は、基本的に他の微生物が存在しない無菌の状態にある。生後3-4時間後には、外の環境と接触することによって、あるものは食餌を介して、あるものは母親などの近親者との接触で、あるものは出産時に産道で感染することによって、さまざまな経路で微生物が感染し、その微生物の一部は体表面、口腔内、消化管内、鼻腔内、泌尿生殖器などに定着して、その部位における常在性の微生物になる。
一部の原生動物や古細菌を除き、その多くは真正細菌である。一般には常在細菌と総称されることが多い。
このうち消化管の下部にあたる、腸管内の常在細菌が腸内細菌である。腸の内面を広げるとテニスコート1面分にも相当しさながら花畑のように細菌類が生息していることから「腸内フローラ」とも呼ばれる。フローラは「花畑」を意味する[信頼性要検証]。1960年頃までは腸内には大腸菌しか認識されていなかったが、今日ではこうした考えが一般化した。
腸内環境は嫌気性であり、腸内細菌の99%以上が嫌気性生物である偏性嫌気性菌に属している。これらの腸内細菌の代謝反応は還元反応が主体であり、また種々の分解反応が特徴的となっている。
嫌気呼吸の種類には、嫌気的解糖、硝酸塩呼吸、硫酸塩呼吸、炭酸塩呼吸などがあり、基質を還元することによって代謝に必要な電子を得ており、例えば、硝酸塩から亜硝酸塩を、硫酸塩から硫化水素を、炭酸からメタンを生成するような例がある。
腸内細菌叢を構成している腸内細菌は、互いに共生しているだけでなく、宿主であるヒトや動物とも共生関係にある。宿主が摂取した食餌に含まれる栄養分を主な栄養源として発酵することで増殖し、同時にさまざまな代謝物を産生する。
腸内細菌が発酵によって作り出したガスや悪臭成分がおならの一部になる。腸内細菌は、草食動物やヒトのような雑食動物において食物繊維を構成する難分解性多糖類を短鎖脂肪酸に転換して宿主にエネルギー源を供給したり、外部から侵入した病原細菌が腸内で増殖するのを防止する感染防御の役割を果たすなど、宿主の恒常性維持に役立っている。
しかし、腸管以外の場所に感染した場合や、抗生物質の使用によって腸内細菌叢のバランスが崩れた場合には病気の原因にもなる。また、後述に示すような生理作用があるため、腸内細菌間のバランスを崩すと脳をはじめ、心臓、関節など一見腸とは関わりがなさそうに見えるあらゆる部位の病気に発展する可能性を持っており、寿命にも大きな影響を及ぼす。
糞便のうち、約半分が腸内細菌またはその死骸であると言われている。
宿主であるヒトや動物が摂取した栄養分の一部を利用して活動し、他の種類の腸内細菌との間で数のバランスを保ちながら、一種の生態系(腸内細菌叢、腸内常在微生物叢、腸内フローラ)を形成している。
腸内細菌類が「縄張り」を主張し、侵入してきた新しい菌に対しては腸内フローラを形成している細菌類が攻撃を加える。
このため病原菌などは通常駆逐され、病気や老化から守る役割を果たしている。
腸内細菌の種類と数は、動物種や個体差、消化管の部位、年齢、食事の内容や体調によって違いが見られるが、その大部分は偏性嫌気性菌であり腸球菌など培養可能な種類は全体の一部であり、VNCの種類も多数存在する。
なお、その名称から腸内細菌の代表のように考えられている大腸菌は、全体の0.1%にも満たない。
5つの働き
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ヒトの場合、腸内細菌には主に5つの働きがある。
病原体の侵入を防ぎ排除する。
食物繊維を消化し短鎖脂肪酸を産生する。
ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンK、葉酸、パントテン酸、ビオチンなどのビタミン類の生成をする。
ドーパミンやセロトニンを合成する。
腸内細菌と腸粘膜細胞とで免疫力の約70%を作りだしている。
肥満との関係
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肥満の有無にウェルコミクロビウム門に属するアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)という腸内細菌が関わっているとの指摘がある。
この細菌が少ない人ほどBMI値が高い。痩せた人ではこの細菌が腸内細菌の4%を占め、太った人ではほとんどゼロである。
この細菌は腸壁を覆う粘液層の表面に潜んでいる。この細菌が少ないと粘液層が薄くなりリポ多糖が血液中に入りやすいとされる。
なお、リポ多糖は脂肪細胞の炎症を引き起こし新しい脂肪細胞の形成を妨げ、既存の細胞に脂肪の過剰な蓄積を起こす。普通マウスの主要な2種類の腸内細菌と比較して肥満マウスの腸内細菌ではバクテロイデス門が少なく、フィルミクテス門が多かった。
ヒトでも同様の結果だった。無菌マウスに普通・肥満マウスの腸内細菌を移したところそれぞれ同様の現象が起きた。
肥満マウスでは痩せたマウスに比べてフィルミクテス門に属するクロストリジウム属が飛びぬけて多く存在していた[81]。
ヒトの例では、イタリア都市部の低食物繊維・高エネルギー食の子供の便ではフィルミクテス門が多く、アフリカの高食物繊維・低エネルギー食の子供の便ではバクテロイデス門が多かった[82]。
フィルミクテス門は脂質やたんぱく質を好み、バクテロイデス門は食物繊維を好む。
逆に言えば高食物繊維・低エネルギー食を続ければフィルミクテス門の菌が減り、太りにくくなる[83]。
一方、過去の研究を分析しなおした2014年の研究では、フィルミクテス門とバクテロイデス門との比率は、人間の肥満と一貫した関連性がないことが指摘されている[84]。
1950年代から米国の農家で薬用に満たない低用量の抗生物質の家畜への投与が家畜の体重増加を大幅に早めることが認められ、これを飼育に利用されてきた。
なお、実験動物のマウスへの抗生物質の低用量投与でも体重増加を示した。生後6か月のヒトの幼児でも抗生物質の投与と体重増加が関連を示していた